transfer pricing tax system

移転価格税制 トピック① 概要

transfer pricing tax system

移転価格税制とは?

はじめに

ビジネスの多国籍化が進む中で、俗に「課税逃れ」と呼ぶ、各国の税率の違いに着目した多国籍企業グループの活動が注目を集めいてます。2012年には、課税についての世界的な取り組みとして、OECDによるBEPSプロジェクトが開始しました。本稿では、移転価格税制において使用される基本的なキーワードを捉え、本税制の目的や概要を説明します。

キーワード

移転価格・移転価格税制・移転価格文書・独立企業間価格・国外関連者・国外関連取引

一般に、移転価格(Transfer Pricing)とは、企業の、国外に所在する特殊関連企業との資産・サービスの取引価格のことを指します。そのうち移転価格税制とは、多国籍企業グループ内における移転価格、例えば、親会社と外国子会社間の取引価格が、不当に高かったり、安かったりすることで起こる課税逃れを防ぐために作られた税制です。

ちなみに、日本では1968年に租税特別措置法第66条の5「国外関連者との取引に係る課税の特例」として規定されている他、ベトナムでは2017年に施行されたDecree20で定められている等、各国でそれぞれの“移転価格税制”が規定されています。

そんな移転価格税制において、国外関連者とは、いわゆる親子・兄弟関係にある会社を指します。少し厳密に、OECDの定義では、”特殊関連企業”として「経営・支配・資本において、直接または間接に関連のある企業」と定義されています。

  

図1:多国籍企業グループ内での移転価格取引(ベトナム)

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ベトナム子会社が、①親会社に販売する金額よりも②高い利益率で第三者に販売している場合、

親会社に対する販売価格(移転価格)が適正価格に合わせて再計算されることになります。

 

では、移転価格税制において企業に求められていることはなんでしょうか。例えば、日本における移転価格税制とは、「法人と国外関連者との間の取引を独立企業間価格と異なる価格で行ったことにより、その法人の所得が減少する場合に、その取引が独立企業間価格で行われたものとみなして法人税の課税所得を計算する制度[1]」と定められています。おおざっぱに言えば、企業グループ間の取り組みや戦略にどういう意図があろうと、国内外関連者で取引を行う際は、独立企業間価格に合わせなければならず、そうでない場合に各国当局が正しいとする税額を再計算できるという制度になります。

移転価格税制における適正な価格が、前述した独立企業間価格です。これは、独立企業間原則(Arm’s Length  Principle)に則り概ね各国同じように定められています。例えば日本では、「当該国外関連取引が独立の事業者の間で通常の取引の条件に従って行われるとした場合に、当該国外関連取引につき支払われるべき対価の額[2]」と定められています。要は、同じ様な条件で他社と取引する価格が、グループ間においても正しい取引価格である旨を説明しています。

そして、移転価格文書では、同じ様な条件の他社、を探して分析したレポートになります。中では、独立企業間価格を算定するために、様々な分析と作業を行います。この作業を、税務当局に対して分かりやすく説明できるよう、文書で残す必要があるため、この行為を「文書化」といい、企業が行うべき最も具体的なアクションとなります。

文書化に関しては各国様々な要件があるものの、OECDでは三層構造でのアプローチとして、①ローカルファイル、②マスターファイル、③国別報告書という3つの文書の作成が紹介されています。前述したとおり、親会社で作成義務がない文書を、子会社で作成する必要がある等、各国で異なる文書化要件には注意が必要です。

 

まとめ

移転価格:国外関連者との取引価格

移転価格税制:移転価格を独立企業間価格と比較して、正しい課税所得を計算する税制

独立企業間価格:類似の条件で第三者と取引を行うと仮定した価格

国外関連者:50%以上の株式保有や実質的な支配関係がある、親子・兄弟関係にある会社等

移転価格文書:①ローカルファイル、②マスターファイル、③国別報告書

(※)国外関連者や文書化要件は、国によって定義が異なるため確認が必要です。

 



[1] 措置法第66条の4第1項、措置法第68条の88第1項

[2] 措置法66条の4第2項